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其の三 陸軍軍医大尉 佐○榮○

Category : 空挺隊員の証言 |

五月二十一日(木) 快晴

朝薄寒さに目が覚める。愈々やるのだ。空はからりと晴れて居る。
着任以来の準備訓練で腹筋が少々痛いけれども、心には何も不安がない。
雨の為予定より延びて居たのが、今回こそやるのだと思へば何となく満足した感じである。
いつもの様に聯隊の同僚と汽車(※日豊線)の中で一緒になると、皆ニコニコした顔で「今日はやるんですね」「皆で見て居ますよ」等と話しかけられる。
讀賣の落下傘塔を知らずに来た我々三名のみが、一緒に着任した。
所沢を卒業した連中から既に二、三回もの降下にとり残されて、彼等から既に集團訓練を終つた後にやつと飛行場で我等の単独降下が計画されて居るのである。
此迄の準備訓練の状況は次の如くであつた。

訓練


實施者は初め未経験の我々已と思つて居たところ、研究降下をやる二名が新に加つて計六名となり、順番がきめられる。

通常は(新田原)飛行場から二十粁余離れた降下場で行はれるのが特別と言ふ訳か練習部の真上で實施されるので、衆目監視の中でやる次第。
それだけ責任も亦重い訳である。
すつかり用意が出来上ると、コダツクを中澤君に渡して生涯の記念となるであらう今日の初降下のスナツプを頼んでAT機の一番奥の席に腰かける。
気の短い僕にとつて最後の順番は少々苦手であるけれども、しやうがない。

待つ程もなく機は離陸して一直線に海の上に出る。
青い海面は鏡の様に凪いで居る。地平線は春霞に煙つて居る。波打ちぎはだけが一連の白波を立てゝ視界の涯てまでつゞいている。
機は軽く揺れ乍ら次第に高度をとり、緩く旋回して再び陸地の上に出る。

気分は来る前と少しも変らない。脈拍も変化がない様だ。
同乗者の顔を見渡しても誰も変つて居ない。
下を見ると森も畑も河も村も次第に小さくなる。
正面の高度計を時々見る。
四〇〇―四一〇―四二〇―四三〇。
小刻みに針は進んで、軈て五〇〇になると機は水平に飛ぶ。

景色はいつもと違はないが、今日こそあの遠い地面を目掛けて両手を揃へて高く上げ乍ら、兎の様に跳び出すんだと思ふと、無意識に手が窮屈に身体に装着された傘体とバンドに触れて点検をする。
何時の間にか軽爆が一機左後方にピツタリとくつゝいて飛んで居る。
後方の席で航空写真機を手に持つて、白い歯を出してニヤニヤして居る同乗者が見へる。
さては!俺達の跳出姿勢を撮ると言ふのか?
愈々もつて、だらしのない姿勢は出来んぞ!

改めて同乗者の顔を見渡す。
皆緊張した顔付だ。然し格別蒼い顔をして居る者は誰もない。
機上教官の小山少尉だけは一人でニヤニヤして居る。
軈て飛行場へ侵入の合図が操縦席から押されて「ビービー」と異様な音で鳴ると、機は速度をおとして左右にグラグラ揺ぐ。
小山少尉がサツと扉をあけると相当の風だ!
声高く「降下用意」と叫ぶ。
一番降下者は重そうに右脚を運び乍ら扉に手をかけて下を見て居る。
流石に平然たるものだ。
降下!
重い右足を下にして落ちて行くのがチラリと見へる。

座席から立ち上つて二番降下者の墜ちて行くのを見る。
大きく手を挙げてスルスルと自動索をひき乍ら、殆ど直立した姿勢で斜下方に消へ去る。
ニユース映畫で見た通りだ。
機が旋回して第二回のコースへ入らうとして居る。
真下の飛行場にはマツチ箱を並べた様に黒い格納庫が整然と並んで居る。
右手の方には銀色の〇〇機が幾列にも並んで見へる。少し離れてクリーム色のグライダーも小さく見へる。

二番降下者は中空にフワリと浮んだまゝ中々降りない。
随分ゆつくりなものだ!

その中に第二回が始まる。
三番降下者はまるで小さな人形の様に両手を挙げて消え去つた。
「四番降下者は降下!」と肩を打たれても踞んだ姿勢のまゝ稍躊躇をするかと見る間に跳び出たが、出ると直ぐ左に傾りて旋る様に落ちて行つた。
愈々俺達の番が来た!
あまりにも早く来たやうに思ふ。林中尉の顔を見る。何ともない。
何時もの通り平然としてすました顔つきをしながら、「山が見へますね」と言はれて見ると、正面に〇〇山が連つて水平に見へる。
「跳び出したらあの山は視界から消へるでせうね」と続いて言ふ。
嫌なことを言ふと思ひても仕様なしに「うん消へるかも知れん」と答へた。
話しをすると頭に蔽ひかぶさつた重苦しい雰囲気が晴れるやうだ。
それから努めて話を始める。

一時見へなくなつた例の軽爆が又いつの間にか傍に寄り添つて来る。
「あの写真機を持つてる人は誰だつけ」と問ふ。
「宮本大尉殿です」と小山少尉が代つて答へる。
遂に扉が開けられ林中尉の後に立つて姿勢をとる。
ふと真下を見ると〇〇〇町が続いて廣い墓地が小さく見へる。墓を見ると林中尉との例の約束を思ひ出して、最期にも一度あの約束を確め度い心に駆られる。
然しそんな余裕があらう筈も無く、早くも合図がかゝつて林中尉は大きく跳び出して行つた。
よし!とばかり直ぐに代つて姿勢をとる。
遥かの地平線を凝視し乍らエイツと跳び出す……。

地平線がチラリと傾いて眼に残る。

奔流に身を巻かれ乍ら「未だ?未だ?」焦だしい記憶が残つて居る。
バーンと傘が開くと同時に急激に身体を振られ乍ら吊上げられた感じがして、抛物線を畫いて居た私の身体がフワリと静止する。
総ゆる感覚をとり戻した。
地面は静止して見へる。
落ちて行く感覚は全くない。
下を眺めると飛行場の真上である。建物も、飛行機も、グライダーも初夏の陽光を浴びて美しく輝いて見へる。
一瞬前の鉛の様な不安な世界から簡単に解放されて、まるで夢の様に思へる。
身体には何處にも苦痛はない。
注意を思ひ出して上をふり仰ぐ。紺碧に澄み切つた空に純白の傘が大きくふくらんで、はち切れんばかりに輝いて居る。

先づ豫備傘を脱して左手に持つ。
地上から百米の所で赤い紐を引張つて落してやるのだ。
下を見ると未だ時間は充分ある。地面に着く迄、吊索を種々引張つて傘体の廻転を試める。
その中に地面に立つて居る地上勤務員が見へて来た。近づくと降下の速度がはつきり解る。
成程相当な早さだ。
浮び上がる様に近づく。急いで左手の豫備傘を落してやる。
ヒラヒラし乍ら直ぐ地面に着いた。

急に風が出てグンと引かれ乍ら身体が傾斜する。
誰か叫び乍ら走り寄つて来る。見る見る近づく。
「膝を離すな!」
そうだ膝をしつかりとつけて!地面が流れて居る!
ドシン!!
横倒しに地面に叩きつけられる。ぐるりと廻転して立上らうとするが白い吊索が靴に絡みついてズルズル引摺られて居るところを助け起されてやつと立ち上る。
山野少佐殿も中澤君も重い物を右足につけて降りた。
木本中尉も二回目に降りた。
大木君も皆ニコニコした顔で「どうだ異常はないか」「御苦労だつた」等と言ひ乍ら駈け寄つて来られる。
後の方には担架を持つた衛生兵が一團となつて整列して居る。
中澤君に「姿勢は何うだつた?」
「良く伸びて居たよ!」

それを聞き乍ら、此れでやつと俺もあの兵達と同じ落下傘部隊の一員になれたのだとほつとする。


陸軍挺進團「落下傘部隊衛生部員ノ記録」より

其の四 陸軍衛生軍曹 村田弘

Category : 空挺隊員の証言 |

昨日よりの興奮が未だ醒めやらぬ様に朝早くから今日の降下者は恵まれた晴天に嬉々として騒音をはしやぎ立て、落下傘に開傘ゴム紐を掛けるもの、点検に余念のない者、洗面袋をブラ下げて皈つて来る者、降下靴を穿く者等々に皆溌剌として全で昨夜あたり寝台上で座禅を組んだ兵隊だとは思はれない活発さ。
だが、唯吹流し丈がだるそうに飛行場の隅つ子の方で居眠りをして居る。
殆んど無風状態。おまけに五月五日端午の節句と来て居るから、天好の甲だ。
特に處女降下の我々には印象がのころ訳だ。

〇八・〇〇
太陽は高くきら〃と光を地上に投げて格納庫の隅つ子の方迄照り付けて居る。格納庫の前には落下傘を着けた今日の降下兵が全員整列して居る。
教官助教が一生懸命落下傘の装着や開傘装置の状況を汗を流し乍ら入念に点検をして居る。
引続いて教官殿の訓示が行はれる。飛行場一帯はエンヂンとプロペラの音で訓示の聴き取れない位にやかましい。
訓示が終つて格納庫内で待機する者と直ぐに搭乗する者とに別れる。

搭乗者の申告が終つてそれ〃自分の搭乗すべき機に走つて行く。
プロペラーの回転で機に近付けない程の強い風圧を踏み耐い乍ら走つて行かないと吹飛されそうで一寸骨だ。
全員規定の席に就くと、機付の整備兵が走り去る。
操縦士と機上教官との間に連絡を執ると軈てエンヂンは一層唸りを立てゝ滑走を始める。

愈々飛ぶんだなあーと想ふと丁度百米突競走でスタートに就いた時の様に心臓が早鐘を打つて血液が一度に脉管に弾き出されそうだ。
全く何んとも言い得ない氣持。
愈々速力が加はつて滑走の動揺が機体より消え去ると、尻つぺたと降下靴の裏側から押上げられる様な感じを体全体に受けて怪物の様にぐん〃大空に高度をとつて行く。
窓越しに聴く気流の翼を洗ふ音は囂々として嵐の中を目掛けて飛び込んで行く様だ。
間もなく機は海上に出ると豫定課目の高度を保つて海岸傳ひに降下場へ方向を換へて飛んで行く。

大気の上にどつしりと落付いて飛ぶ輸送機は全て海上に浮べたと何等変らない。
時々気流の波にぐらり〃と軽い動揺が機全体に感ずると青空ばかりを網膜に映したり緑の地面ばかりを現出させたりして一寸落付かないやる瀬ない気持だ。
やつぱり皆んなも落付かないのか装帯やら離脱器を無性に撫で廻して居る。
蒸し暑い機内の油つ臭い空気は遠慮もなく皮膚に汗を滲み出させる。時々耳が変になつて鼓膜でも塞がれた様に聴へなくなると大きく欠伸をして欧氏管の通気を好くしてやる。
機上教官殿が「傘は皆の折畳んだものだ。お前達の腕に自信の有る限りは安心して飛べ」と暫く黙つて「必ず開くんだから」と付け足した。

「ハイッ」と皆んなで元気に答へたものゝ、一人々々別々に何が外の事を考へて居るらしい表情だ。
暫くはそれから無言だつたので、何も考へるともなくジーと眼を閉じて考へて居ると、まざ〃と野戦生活のありし日が浮んで来る。

それは、衛生部員としての野戦生活は余りにも平凡に考へられるが決してそうではない。
一緒に教育を受けた戦友は蟹の足でもにぎ取られる様に一人二人と此の世から去つて逝つた。
昨年の長沙第一次作戦で長沙を転戦して第二日目だつた。
或る小部落の泥田の中で三〇〇米ばかり泥の中に漬つたつけ。将校當番兵四名と下士官が三名だつたから確かに七名だつた。
病院の悲しさに武器と言つたら腰の帯剣が一梃きり。
あの時もやる瀬ない、いらいらした氣持だつた。敵の小銃弾が兵隊の背負つて居る洗面器に穴を開けてカチン〃と音を立て通つたり、薄赤茶けた稲の穂をビユン〃と千切つて頭に飛散する毎に亀の仔の様に首を縮め乍ら、受領した作戦命令や陣中日誌の原稿を入れた圖嚢を大切に抱へ乍らやもりの様に這つて進んだつけ。
そして糧秣やら部隊長殿の新しい軍靴や革脚絆を積んだ部隊を出る時、輜重班から貰つたチヤン馬が誰に盗まれたかあそこで居無くして了つた。
彼の糧秣は純日本米を大切に秘蔵して持つて歩いたものだし、軍靴も革脚絆も赤革の新品だつたから、火事泥の奴は大した収穫だつた筈だ。

等とあの當時を懐ひ出して「彼の時は俺は死んだんだ」と思つたら、今日はブレーキ付で降下するんだから大袈裟に考へる必要もない。騒ぐな落付けと自分が自分を慰めて居る。
そうかと思ふと又開くだらうか?と自問する。
否々必ず開くよ、開かないのは落下傘に精神が打込まつて居ないからだ。どうせ死んだつて一思いで却つてさつぱりするぢやないかと自答する。
亦此んな事を懐ひ出した。
部隊で志願者として第一次身体検査に合格した時、竹藪の露と消え去つたとか、ビツキ(茸の名)の様になつたとか、故衛生曹長だとか、戦友達から揶揄され、又自分でも其んなくだらん事を面白がつて他人事の様に聴き乍ら寝台上で倒立をやつたり、マツト運動をやつたり、戦友を誘き出しては鉄棒にブラ下がつて副官殿から笑はれた事を走馬燈の様に次から次へと懐ひ出しては硬ばつた顔面を苦笑させる。

飛行場より幾分飛んで来たが「茄子環を左肩へ出せ」と軽い教官殿の號令だ。
「そら愈々来たな」等と想ひ乍ら茄子環を左肩に出して掛ける。
心臓が新たに早く然し強く鼓動を打ち始めた。と、突然ビービービーと恰も地獄の底より響いて来る様な不気味な忘れることの出来ないぞつとする様な嫌な音律だ。
「今日は着地目測はやらなくとも良いぞ」
そして「立て」と教官殿が重たい號令を機内に拡め乍ら席を蹴つて昵うと地下を目測して居る。
降下者も席を立つた。
降下豫行訓練の時の様な恰好で全精神を、神経を、茄子環に集め乍らパイプに掛け二、三度引張つて見る。
異常なし。
今度はパイプを握つた儘気を落付く様に瞑目する。
年老いた母、肥つた父、兄や弟、近所隣の人々、故郷の山や川、切立つた岩壁に咲く彼の美麗な萬作の花、清い流れ等が走馬燈は愚か電光の様に脳裡をかすめる。
ビービー。
降下用意だ。
「窓を開けろ」と教官殿が手で合図をし乍ら叫んだ。
ぐうつと降下窓を開くと、機翼を洗ふ気流が恰も素晴しい嵐が亜鉛屋根を叩く様に名状し難い音が囂々として鼓膜を震はす。

前半部の上半身は気流にさらされて吹飛ばされそうだ。
頬ぺたの水分が飛ばされて木乃伊の様になりさうだ。
高度計は豫定課目より一〇〇米ばかり超過して居る。
「姿勢を執れ」と教官殿が號令した。しつかりと踏みこたへて姿勢を執る。

此の時「跳び下りるんだぞ」と神経のどつかで叫んだと思ふと全脳に閃めく様に拡まる。
併し「風當りが強い。これぢや開傘する迄錐揉みになるか、独楽廻しになるか知らんぞ」と妄想する。
「衛生部員の面子上、しつかりやれ。ヘマをするな。意気を見せてやれ」と應援の声が聞えて来る。
又實際衛生部の気合を見せてやり度い。

機は降下場上空に首を突込んだ。平均風と地上風を表した石灰の矢が二本地上を這つてゐる。
併し何米だかそんな悠長な事は網膜にも映じなければ神経も刺激されない。
「降下ッ」と同時に教官殿の手が尻のあたりを嫌つと言ふ程叩いたらしいが、毛虫の這つた程にも感せられなかつた。
併しそれも一時の出来事だ。
「エイッ」と反射的に裂昂の一声、跳出せば体は空中に踊る。と言つても實際は「儘よ」と飛び出したと言つた方が適当な言葉かも知れなかつた。
物凄い風圧を右側に感ずる。
視界は全く灰色に変つた。鯉のぼりが突風を喰つて逆立ちした時の様に頭が下になつて脚は開かなかつたが、膝関節が若干曲つた様だ。し身体全体が左方向に僅かづゝ旋つて行く様だ。
訳の判らない閃きが頭の中で葛藤した。
「変な恰好になつた」「不可ないツ」と思った瞬間、まぶしい光線にきら〃つと視神経が刺激されて全脳に閃めいたと思つた瞬間、ガツクンと然し軽い衝撃が来て恰度坐つた様な恰好になる。
此の時初めて「開いたんだ」と一人言を云つたもんだつた。
そして仰いで見ると、初めて「おゝ開いた」と何か發見でもした様に得々とした。
全く此の時程萬物に、草一本一本に迄も感謝の気持を抱いたことはなかつた。
之は初めて降下する者の知る事、感ずる事の出来る特権だ。

「尊い体験を得た。征服した。落下傘を吾が物にした」と頭が複雑になつた。
そして手足をばた〃させて狂喜したい程の焦燥にかり立てられた。
實際、感想だけを綴る時、歌を唄つたと書いたそうで、後で教官殿から誰だつたか叱られて居た事もあつた様だ。
視線を地面に向けると「アツ」何んと言ふ素晴しさだらう。
嘗つては飛行機より眺めた事象とは全く異にして脚下に拡げられた地面は一大パノラマの展開だ。
顕微鏡を覗く様な恰好で良く〃見ると、豆つぶ程の地上勤務員が白い運動服を着て青草の中をピチ〃泳ぎ廻つて居る。

恰度何んの事はない。地上勤務員の懸滴標本だ。
早速豫備傘を脱して一息する。
傘は降下して居るのか止まつて居るのか中々地上に近づく模様がないので焦つて来たが、遠くの部落を眺めて居る中に地上に近づいて来た。
余す所、地面迄一五〇米。豫備傘の手動索を握つて待ち兼ねて居る。
後一〇〇米。索を引いてぱつと投げてやると、主なき豫備傘はする〃と先に落下して行く。
直に着地姿勢を執つて降下地を凝視すると、物凄い勢いで大地が飛び出して来る。
バツタリ後方に叩かれて其の儘転回して傘を鎮める。
地上勤務員が走つて来る。
装帯を脱し、組の集合を待つて丘の上の地上教官殿の處迄申告に駈けて行く。

村田軍曹以下六名、第二十六號機搭乗課目終り。異常ナシ。
申告が終ると各自勤務員より傘を受領し、集合場所に集まつて、生れて初めての落下傘降下に対する感慨で誰しも胸が塞つて暫し無言。
それが過ぎると各自めい〃自慢話で暫し鳴り静まない。 

終り。








其の五 陸軍衛生軍曹 吉○一○

Category : 空挺隊員の証言 |

注射器握る双手に降下手袋を嵌めて準備訓練に勤しみながら今日の日を夢見つゝ数ヶ月、我々の初陣とも云ふべき待望の単独降下の日は来た。
軽い眠気に起床の声を聴く。幸ひ空は快晴に恵まれ、絶好の降下日和だ。
昨夜来の興奮も鎮まり、心境も天候の如く済みきり何の邪念も欲望もない生れた儘の精神だ。
朝食を終え準備は完了。生命を託す落下傘も異常なく格納庫前に整列する。

温情溢るゝ教官の激励の訓示も輸送機のエンヂンの爆音で途絶えがちで、エンヂンも好調らしい。
搭乗區分に依り各機にそれ〃登場する。
間も無く搭乗席から飛行出發の信號が入る。機は好調に緑の原を滑走し、緩やかに離陸した。
「輸送機に乗つた儘此處へは帰つて来ないのだ」と云ふ機上教官の言葉も緊張し切つた神経に傳る。
高度計は五〇米、一〇〇米、又機上教官の声。
「此の位ひの高さで予備傘を投下するのだ」と。高度計はぐん〃上昇する。下界はと見れば実際綺麗だ。まるで箱庭のやうで林も川も沼も緩やかに消え去る。
地上の乗物より安定した飛行振りだ。愈々降下場も近づいて来たなと思つてゐると、操縦席からピーピーピーの信號が来た。
「自動索を左の肩に出せ」
続いて
「自動索をパイプに掛け」と機上教官の命令。
今つく〃命令の偉大さと云ふか、何んと云ふか命令の深厳さが身に染みる。搭乗した時からの脂汗も乾き、胸の動悸も少し鎮つて来たが、生唾ばかりが無闇に出る。
分隊長の自分と二番三番が立つて降下窓のパイプに自動索を掛けると、機上教官も緊張した顔に汗をにじまして「元気で落着いて行け」と……。

又操縦席からピーピーの信號で降下用意だ。
降下窓の扉を開いて降下姿勢を執る。機外は翼を切る激しい気流で轟々……。頬は気流で顔面神経痛のやうに痙攣する。
降下場に入ると標識が見える。東の風、平均凪、地上風共に三米。適當な凪だ。
分隊員はと後をみると、降下帽から緊張した眼。生死一如何ものもない、崇高な精神だ。
啄木が「高きより飛び降りる如き心もて この一生を生きる術なきかと」と詠んだとか。この精神の事であらう。

降下場の真上に来た。
今だなあと思ふと「降下!!」と機上教官の命令。瞬間満身の力を臀と脚に託し、機胴体訓練時のやうに前方の山頂を直視して「えい!!」と裂帛の気合を掛けて跳びでる。と、身体は気流に乗つて流れるやうな感じがするが、何も見えなくなり、姿勢が崩れかゝつたと思つた時ググーと身体が何かで縛られたやうな衝撃を感じ、視野が明くなつた。
あゝ開いたのだ。
上を見ると純白な傘が大きく開いて喘いで揺れて居る。何にも譬喩やうのない感激で胸一杯で、何か大きく声をだして騒いで見たい衝動にかられる。
分隊員はと見ると、自分より一定の感覚を置いて大空に海月のやうに浮いてゐる。あの興奮もあの緊張振りもなかつたかのやうに悠々と我に続いて降下して来る。

予備傘の投下準備をし、腰に振下げて下界を見ると地上勤務員が小さく視界に白い運動服のみ點々として動揺して居るのが見えるが、空中に止つて居て少しも降下して居ないやうな錯覚を起す。
少し高見の見物と洒落て付近を見廻す。氣持が精々して暫し没我の境―。

降下場は松の木が點々として降下に支障あるやうに感じられ、松の木にかゝらぬやうに念じ、又今日の降下の成功を故郷、野戦の誰かゞ祈念してゐて呉れてゐるやうな感じがし、又色々な今までの事が走馬燈のやうに脳裡に閃めく……。
「予備傘を下せ」と地上勤務員の声。慌てて予備傘を投下すると、主なき予備傘は半開きの儘さあつと降下して行く。
そろ〃着地準備だと思つて着地点を凝視してゐると、大地が盛り上つて来て自分の鼻に衝突しさうな感じがする。此處でちと下腹に力を入れ着地姿勢を点検する。脚、身体、臀良しと精神は脚に集中する。
風は幸ひにも背に受けて十字点の方に流されてゐる。

着地だ。
無意識の儘前方廻転にて起き上り傘を鎮静して装帯を脱し、馳せ来た勤務員に傘を依頼して身体に異常ないかどうか跳躍して見ても何處も異常ない。無事なる事で感激一杯、身も心も軽い。續く分隊員も無事着地して嬉しさうに馳せて集合して来る。
分隊員六名はお互ひに元気な身体を喜び、嬉しさを包み切れず楽しかつたやうに囁き合つて居る。
地上勤務隊長に声高らかと一種の誇りをもつて異常なしの申告をする事が出来た……。

想起すると、あの中支の山奥の部隊を希望に燃えながら出發して来る時、トラツクの傍まで見送つて激励した戦友達の顔又は護國の鬼と化した同僚の顔が幻影として脳裡に焼付き、衛生部の為めしつかり頑張れと声援してゐるかのやうだ。
戦法が進歩するにつれ、我々も何處までも跟随して行かねばならぬのだ。何處の空へでも征かう!!

硝煙鼻を衝く新戦場に降下する日が一日も早かれしと念じつゝ帰営の途に就いた。
以上

其の六 陸軍衛生軍曹 寺○鏡○

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陸軍落下傘部隊の演習を東條英機が観戦していたという珍しい証言。
唐瀬原降下場ではなく、他の演習地での記録でしょうか?



○月○日、内閣総理大臣供覧演習に降下衛生部員として只一人参加の光栄に浴しましたことは實に無量の感激です。
春浅き○○の地、愈々待望の供覧演習だ。
今日この若き我等の度胸と武力を発揮する時だ。
胸は高鳴る血は踊る。
降下演習を明日に控えて落下傘の折畳みも完了、投下用衛生材料の準備も完了す。楽しき夕食に付たのは八時頃。
日夕点呼時、小隊長から「明日は部隊を代表しての演習である。其の責任は重大なり。良く身の廻りを整理し、事故なき様に元気であれ」と注意される。

消燈ラツパと同時に全員床にもぐる。
自分は床に入る前に外に出て、明日の天候を仰ぎ見るば天高く星が燦然と光輝き、明日の晴の効果を待つてゐる如く、飛行場中央には明日の演習を控えて尾翼を休めてゐる輸送機の姿。
事故なき様頼むぞと念願する。
一安心の気持ちにて室に入り見れば、戦友達は皆枕を抱いて明日の夢でも見てゐる如く眠つてゐる。中には傘を前に並べて何事か考へに更つてゐる者もある。多分明日の演習無事故を祈つてゐるのであろう。自分の生命の落下傘を抱き、明日は頼むぞ、確實に開いて呉しこと、思はず傘を撫で廻す。

寝苦しき一夜も爆音に起された。
時計は四時を半ば廻つてゐる。外は漸く白々と明けてくる。
戦友達はまだ夢を見てゐる様だ。
格納庫方向からは整備兵のエンヂンの調整に爆音また物凄く響き、其の内三人、二人と起き始める。
「起床〃」と不寝番の声で慌てゝ毛布を蹴り起きる。皆の者も元気で張切つてゐる。
起床と同時に降下服に身體を包み、外に飛出る。
風は殆んど無風の状態。太陽は燦然と輝いてゐる。
東天に面し厳粛なる遥拝が終り、次で故郷の父母に今日の晴の演習を報告する如く、点呼後永田軍曹の指揮にて準備運動が始る。
〇月の朝風はまだ〃冷たく、肌身が震ひ相である。
身體の曲伸を充分に、又柔軟をして國民体操、青年体操と着々と進んで行く。
九時より小隊長殿の傘装着の点検あり。
主傘予備傘と一秒〃点検が進む。装帯良好。離脱器機能良好。開放ゴム良好と。
又、兵器装着の研究。
午前中は地上訓練、マツト運動、離脱訓練。

晝食後、愈々出發。
降下時間までは一時間半ある。
弾帯(帯剣)、剣銃其の他救急用衛生材料として注射容器(カンフル・モルヒネ液)、三角布、螺旋止血帯、呉氏副木、ガーゼ巻軸帯一、二、三巻を身體に付け、其の上に降下服を着る。
武装降下は初めて故、単独・連續・集團と異つて身體の自由は勿論、實に窮屈!
鉄帽も充分に結び、搭乗準備完了す。

三時も刻一刻と近づき、エンヂンの調節も酣にゴー〃と天地も飛ばんばかりの響をたてゝ、愈々装着準備完了。
小隊長殿の指揮の下に戦友達に送られ、一同元気百倍、格納庫前に整列。
部隊長殿の胸も張切れんばかりの力強き激励に一層元気百倍、又責任重大。小隊長殿の登場用意の合圖にてそれ〃各機に別れる。
元気で行こうと只一言、機内はゴーゴーエンヂンの響に鼓膜も破れんばかり。
操縦席は〇〇大尉殿、機関士、副操縦士と長機降下人員は小隊長殿以下七名。自分は七番降下者として搭乗。
各機搭乗終り、ピーと離陸の合圖が鳴り響く。エンヂンの響も一層強度を増し始めた。
と思ふ間に土煙を後に驀進又驀進。百、二百、三百と滑走して行く。
動揺が無くなつたかと思ふ間に離陸一〇米、五〇米と既に眼下は〇上空。時に十五時三十五分、機は大きく左に旋回。
○○○上空に過ぎ海岸線に出んとする。畠は菜の花、蓮華の花の真盛り。実に箱庭の様である。

○○○の海岸線が眼下に見えた。
機は又大きく右に旋回、海岸線に沿ふて○○方向に機首が向ふ。高度は既に○○米、〇〇〇〇山も眼下の様だ。〇〇河も蛇の如く白銀を流してゐる。汽車自動車等は小蟻の様に滑べり行く。
エンヂンは良好、機内は誰一人として語る者はない。
小隊長殿の顔を見れば、玉の様な汗を流してゐる。皆顔色は地上の時よりも青色に変じ、幾分か気が落着かざる如くに見える。

皆一度予備傘の点検を実施。
離陸後既に四〇分。再び〇〇海岸線が白雪を散したる如く見えて來た。海上だ〃。
眼下大判小判の様に夕日に照され燦然と輝いてゐる。實に見事なる景色だ。
機は大きく左に旋回進むに、飛行場だ。
ピーピーピーと降下準備の合圖が響くと同時に、胸の動悸が高く鳴る。一番二番と鐶を掛け準備の態勢だ。
ピーピー、降下用意。〇〇中尉殿がドアを開いた。右手左手と十分なる降下姿勢。
爆音と共に猛烈なる気圧が機内に流れ入る。益々心臓が高鳴り、大きく腹式深呼吸と共に幾分か胸の動悸が静まつた。

実に無念無想。
ピー、降下。
十字點は眼下一番二番と機會的に皆飛出た。
ヒュー〃!實に不気味な音を立てゝ出て行く……。
ホンの瞬時の間、自分も飛出て居た。姿勢も概ね良好と思ひや、直立の感があつた。
実に機体より飛出た時は深い〃谷間に落込んだ様な氣持である。
開傘するまで僅か○秒であるが、十分、二十分も経過した様な感じだ。まだ〃と思つてゐる内にガンと開傘の衝撃……。

ハツと眼を開くと羽衣が開いてゐる。
五つ六つと戦友達も元気で降下してゐる。
アー、開いた。実は此時の気持ちは文筆にては盡されない。
傘は完全に開いたと同時、地上の東條閣下の姿が浮かんできた。

元気益々百倍、予備傘を取り左側腰部の環に釣下げ、空中操縦に一生懸命だ。
と、約五〇米前方に日の丸が見えた。あ、小隊長殿だ。
各分隊もだん〃小隊長に密集して來た。
三百、二五〇。
地上勤務者の白服姿が右に左に走つてゐるのが手に取る如くに見える。
一〇〇米頃より予備傘を投下した。
地面がグン〃ぶつかつて來る様だ。

着地準備の姿勢も確実だ。
両足を合せて前方の吊策を力一杯引張る。ドシンと着地。
立つた〃、無事立つた。
直に離脱器を取り装帯を脱し、降下服を脱捨てるや腰の銃剣を右手に持ち、小隊長殿の方向に走つた。
物料だ〃。
何より早く物料を手に入れなければならぬ。直に煙幕が張られる。
衛生材料箱も手に入つた。戦斗準備完了。

ダツダツ〃、タン〃と機関銃小銃の一斉射撃が開始された。小隊長殿は左に軍刀、右に眼鏡、其の指揮又旺盛に戦斗は益々醒に、右に散会左に増加と前進又前進。
此の間に在りても傷者の発見に勉める。皆無事かなと左右後方を見渡すと、東條閣下が自分の後方三、四米附近に。
胸に勲章が大きく光り輝かせ、軍刀を片手に立つて演習の状況を見てゐる。思はず口先まで出様としたのを指先で覆つた。
ロイド眼鏡、鼻ヒゲ、新聞雑誌其の儘である。

演習終了のラツパが場内に響き鳴り、全員不動の姿勢の内に東條閣下が退場された。
あゝ終つた。
供覧演習も無事故に終つたのだ。
誰知らず良かつた〃と、顔を見合わせれば玉の様な汗を流してゐる。
衛生材料も無事。其處に部隊長殿がお出になつて、「今日の演習は実に良く出来た。士気も旺盛元気旺盛、良く出来た。御苦労」と言つて帰つて行く。

以上

其の七 陸軍衛生上等兵 丸○肇

Category : 空挺隊員の証言 |

搭乗前の気分の問題としては、左程迄も恐いと言ふ心は起らなかつた。
只、底知れない様に気が反跳、そして無我の境だ。
ボンヤリと離陸する飛行機の雄大さを眺めては無性に胸の高鳴るを憶える。
(現在作成中)
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