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其の五 陸軍衛生軍曹 吉○一○

Category : 空挺隊員の証言 |

注射器握る双手に降下手袋を嵌めて準備訓練に勤しみながら今日の日を夢見つゝ数ヶ月、我々の初陣とも云ふべき待望の単独降下の日は来た。
軽い眠気に起床の声を聴く。幸ひ空は快晴に恵まれ、絶好の降下日和だ。
昨夜来の興奮も鎮まり、心境も天候の如く済みきり何の邪念も欲望もない生れた儘の精神だ。
朝食を終え準備は完了。生命を託す落下傘も異常なく格納庫前に整列する。

温情溢るゝ教官の激励の訓示も輸送機のエンヂンの爆音で途絶えがちで、エンヂンも好調らしい。
搭乗區分に依り各機にそれ〃登場する。
間も無く搭乗席から飛行出發の信號が入る。機は好調に緑の原を滑走し、緩やかに離陸した。
「輸送機に乗つた儘此處へは帰つて来ないのだ」と云ふ機上教官の言葉も緊張し切つた神経に傳る。
高度計は五〇米、一〇〇米、又機上教官の声。
「此の位ひの高さで予備傘を投下するのだ」と。高度計はぐん〃上昇する。下界はと見れば実際綺麗だ。まるで箱庭のやうで林も川も沼も緩やかに消え去る。
地上の乗物より安定した飛行振りだ。愈々降下場も近づいて来たなと思つてゐると、操縦席からピーピーピーの信號が来た。
「自動索を左の肩に出せ」
続いて
「自動索をパイプに掛け」と機上教官の命令。
今つく〃命令の偉大さと云ふか、何んと云ふか命令の深厳さが身に染みる。搭乗した時からの脂汗も乾き、胸の動悸も少し鎮つて来たが、生唾ばかりが無闇に出る。
分隊長の自分と二番三番が立つて降下窓のパイプに自動索を掛けると、機上教官も緊張した顔に汗をにじまして「元気で落着いて行け」と……。

又操縦席からピーピーの信號で降下用意だ。
降下窓の扉を開いて降下姿勢を執る。機外は翼を切る激しい気流で轟々……。頬は気流で顔面神経痛のやうに痙攣する。
降下場に入ると標識が見える。東の風、平均凪、地上風共に三米。適當な凪だ。
分隊員はと後をみると、降下帽から緊張した眼。生死一如何ものもない、崇高な精神だ。
啄木が「高きより飛び降りる如き心もて この一生を生きる術なきかと」と詠んだとか。この精神の事であらう。

降下場の真上に来た。
今だなあと思ふと「降下!!」と機上教官の命令。瞬間満身の力を臀と脚に託し、機胴体訓練時のやうに前方の山頂を直視して「えい!!」と裂帛の気合を掛けて跳びでる。と、身体は気流に乗つて流れるやうな感じがするが、何も見えなくなり、姿勢が崩れかゝつたと思つた時ググーと身体が何かで縛られたやうな衝撃を感じ、視野が明くなつた。
あゝ開いたのだ。
上を見ると純白な傘が大きく開いて喘いで揺れて居る。何にも譬喩やうのない感激で胸一杯で、何か大きく声をだして騒いで見たい衝動にかられる。
分隊員はと見ると、自分より一定の感覚を置いて大空に海月のやうに浮いてゐる。あの興奮もあの緊張振りもなかつたかのやうに悠々と我に続いて降下して来る。

予備傘の投下準備をし、腰に振下げて下界を見ると地上勤務員が小さく視界に白い運動服のみ點々として動揺して居るのが見えるが、空中に止つて居て少しも降下して居ないやうな錯覚を起す。
少し高見の見物と洒落て付近を見廻す。氣持が精々して暫し没我の境―。

降下場は松の木が點々として降下に支障あるやうに感じられ、松の木にかゝらぬやうに念じ、又今日の降下の成功を故郷、野戦の誰かゞ祈念してゐて呉れてゐるやうな感じがし、又色々な今までの事が走馬燈のやうに脳裡に閃めく……。
「予備傘を下せ」と地上勤務員の声。慌てて予備傘を投下すると、主なき予備傘は半開きの儘さあつと降下して行く。
そろ〃着地準備だと思つて着地点を凝視してゐると、大地が盛り上つて来て自分の鼻に衝突しさうな感じがする。此處でちと下腹に力を入れ着地姿勢を点検する。脚、身体、臀良しと精神は脚に集中する。
風は幸ひにも背に受けて十字点の方に流されてゐる。

着地だ。
無意識の儘前方廻転にて起き上り傘を鎮静して装帯を脱し、馳せ来た勤務員に傘を依頼して身体に異常ないかどうか跳躍して見ても何處も異常ない。無事なる事で感激一杯、身も心も軽い。續く分隊員も無事着地して嬉しさうに馳せて集合して来る。
分隊員六名はお互ひに元気な身体を喜び、嬉しさを包み切れず楽しかつたやうに囁き合つて居る。
地上勤務隊長に声高らかと一種の誇りをもつて異常なしの申告をする事が出来た……。

想起すると、あの中支の山奥の部隊を希望に燃えながら出發して来る時、トラツクの傍まで見送つて激励した戦友達の顔又は護國の鬼と化した同僚の顔が幻影として脳裡に焼付き、衛生部の為めしつかり頑張れと声援してゐるかのやうだ。
戦法が進歩するにつれ、我々も何處までも跟随して行かねばならぬのだ。何處の空へでも征かう!!

硝煙鼻を衝く新戦場に降下する日が一日も早かれしと念じつゝ帰営の途に就いた。
以上
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