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其の三 陸軍軍医大尉 佐○榮○

Category : 空挺隊員の証言 |

五月二十一日(木) 快晴

朝薄寒さに目が覚める。愈々やるのだ。空はからりと晴れて居る。
着任以来の準備訓練で腹筋が少々痛いけれども、心には何も不安がない。
雨の為予定より延びて居たのが、今回こそやるのだと思へば何となく満足した感じである。
いつもの様に聯隊の同僚と汽車(※日豊線)の中で一緒になると、皆ニコニコした顔で「今日はやるんですね」「皆で見て居ますよ」等と話しかけられる。
讀賣の落下傘塔を知らずに来た我々三名のみが、一緒に着任した。
所沢を卒業した連中から既に二、三回もの降下にとり残されて、彼等から既に集團訓練を終つた後にやつと飛行場で我等の単独降下が計画されて居るのである。
此迄の準備訓練の状況は次の如くであつた。

訓練


實施者は初め未経験の我々已と思つて居たところ、研究降下をやる二名が新に加つて計六名となり、順番がきめられる。

通常は(新田原)飛行場から二十粁余離れた降下場で行はれるのが特別と言ふ訳か練習部の真上で實施されるので、衆目監視の中でやる次第。
それだけ責任も亦重い訳である。
すつかり用意が出来上ると、コダツクを中澤君に渡して生涯の記念となるであらう今日の初降下のスナツプを頼んでAT機の一番奥の席に腰かける。
気の短い僕にとつて最後の順番は少々苦手であるけれども、しやうがない。

待つ程もなく機は離陸して一直線に海の上に出る。
青い海面は鏡の様に凪いで居る。地平線は春霞に煙つて居る。波打ちぎはだけが一連の白波を立てゝ視界の涯てまでつゞいている。
機は軽く揺れ乍ら次第に高度をとり、緩く旋回して再び陸地の上に出る。

気分は来る前と少しも変らない。脈拍も変化がない様だ。
同乗者の顔を見渡しても誰も変つて居ない。
下を見ると森も畑も河も村も次第に小さくなる。
正面の高度計を時々見る。
四〇〇―四一〇―四二〇―四三〇。
小刻みに針は進んで、軈て五〇〇になると機は水平に飛ぶ。

景色はいつもと違はないが、今日こそあの遠い地面を目掛けて両手を揃へて高く上げ乍ら、兎の様に跳び出すんだと思ふと、無意識に手が窮屈に身体に装着された傘体とバンドに触れて点検をする。
何時の間にか軽爆が一機左後方にピツタリとくつゝいて飛んで居る。
後方の席で航空写真機を手に持つて、白い歯を出してニヤニヤして居る同乗者が見へる。
さては!俺達の跳出姿勢を撮ると言ふのか?
愈々もつて、だらしのない姿勢は出来んぞ!

改めて同乗者の顔を見渡す。
皆緊張した顔付だ。然し格別蒼い顔をして居る者は誰もない。
機上教官の小山少尉だけは一人でニヤニヤして居る。
軈て飛行場へ侵入の合図が操縦席から押されて「ビービー」と異様な音で鳴ると、機は速度をおとして左右にグラグラ揺ぐ。
小山少尉がサツと扉をあけると相当の風だ!
声高く「降下用意」と叫ぶ。
一番降下者は重そうに右脚を運び乍ら扉に手をかけて下を見て居る。
流石に平然たるものだ。
降下!
重い右足を下にして落ちて行くのがチラリと見へる。

座席から立ち上つて二番降下者の墜ちて行くのを見る。
大きく手を挙げてスルスルと自動索をひき乍ら、殆ど直立した姿勢で斜下方に消へ去る。
ニユース映畫で見た通りだ。
機が旋回して第二回のコースへ入らうとして居る。
真下の飛行場にはマツチ箱を並べた様に黒い格納庫が整然と並んで居る。
右手の方には銀色の〇〇機が幾列にも並んで見へる。少し離れてクリーム色のグライダーも小さく見へる。

二番降下者は中空にフワリと浮んだまゝ中々降りない。
随分ゆつくりなものだ!

その中に第二回が始まる。
三番降下者はまるで小さな人形の様に両手を挙げて消え去つた。
「四番降下者は降下!」と肩を打たれても踞んだ姿勢のまゝ稍躊躇をするかと見る間に跳び出たが、出ると直ぐ左に傾りて旋る様に落ちて行つた。
愈々俺達の番が来た!
あまりにも早く来たやうに思ふ。林中尉の顔を見る。何ともない。
何時もの通り平然としてすました顔つきをしながら、「山が見へますね」と言はれて見ると、正面に〇〇山が連つて水平に見へる。
「跳び出したらあの山は視界から消へるでせうね」と続いて言ふ。
嫌なことを言ふと思ひても仕様なしに「うん消へるかも知れん」と答へた。
話しをすると頭に蔽ひかぶさつた重苦しい雰囲気が晴れるやうだ。
それから努めて話を始める。

一時見へなくなつた例の軽爆が又いつの間にか傍に寄り添つて来る。
「あの写真機を持つてる人は誰だつけ」と問ふ。
「宮本大尉殿です」と小山少尉が代つて答へる。
遂に扉が開けられ林中尉の後に立つて姿勢をとる。
ふと真下を見ると〇〇〇町が続いて廣い墓地が小さく見へる。墓を見ると林中尉との例の約束を思ひ出して、最期にも一度あの約束を確め度い心に駆られる。
然しそんな余裕があらう筈も無く、早くも合図がかゝつて林中尉は大きく跳び出して行つた。
よし!とばかり直ぐに代つて姿勢をとる。
遥かの地平線を凝視し乍らエイツと跳び出す……。

地平線がチラリと傾いて眼に残る。

奔流に身を巻かれ乍ら「未だ?未だ?」焦だしい記憶が残つて居る。
バーンと傘が開くと同時に急激に身体を振られ乍ら吊上げられた感じがして、抛物線を畫いて居た私の身体がフワリと静止する。
総ゆる感覚をとり戻した。
地面は静止して見へる。
落ちて行く感覚は全くない。
下を眺めると飛行場の真上である。建物も、飛行機も、グライダーも初夏の陽光を浴びて美しく輝いて見へる。
一瞬前の鉛の様な不安な世界から簡単に解放されて、まるで夢の様に思へる。
身体には何處にも苦痛はない。
注意を思ひ出して上をふり仰ぐ。紺碧に澄み切つた空に純白の傘が大きくふくらんで、はち切れんばかりに輝いて居る。

先づ豫備傘を脱して左手に持つ。
地上から百米の所で赤い紐を引張つて落してやるのだ。
下を見ると未だ時間は充分ある。地面に着く迄、吊索を種々引張つて傘体の廻転を試める。
その中に地面に立つて居る地上勤務員が見へて来た。近づくと降下の速度がはつきり解る。
成程相当な早さだ。
浮び上がる様に近づく。急いで左手の豫備傘を落してやる。
ヒラヒラし乍ら直ぐ地面に着いた。

急に風が出てグンと引かれ乍ら身体が傾斜する。
誰か叫び乍ら走り寄つて来る。見る見る近づく。
「膝を離すな!」
そうだ膝をしつかりとつけて!地面が流れて居る!
ドシン!!
横倒しに地面に叩きつけられる。ぐるりと廻転して立上らうとするが白い吊索が靴に絡みついてズルズル引摺られて居るところを助け起されてやつと立ち上る。
山野少佐殿も中澤君も重い物を右足につけて降りた。
木本中尉も二回目に降りた。
大木君も皆ニコニコした顔で「どうだ異常はないか」「御苦労だつた」等と言ひ乍ら駈け寄つて来られる。
後の方には担架を持つた衛生兵が一團となつて整列して居る。
中澤君に「姿勢は何うだつた?」
「良く伸びて居たよ!」

それを聞き乍ら、此れでやつと俺もあの兵達と同じ落下傘部隊の一員になれたのだとほつとする。


陸軍挺進團「落下傘部隊衛生部員ノ記録」より

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