金属アレルギー 敏感肌 化粧品

スポンサーサイト

Category : スポンサー広告 |

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

其の二 陸軍軍医中尉 ○英○

Category : 空挺隊員の証言 |

命令を貰つてすつかり驚いた。余りにも変つた方向だつたので、先づ一体どんな部隊か想像を逞しくしてみた。
兵業とか勤務とか。そして降下するといふ問題に「ヒアツー」とした。
「一体我々も降下するのだらうか」
「勿論降りなきや衛生勤務は完遂出来ぬ」
「だが行つて直ぐ降りるなんて事が出来るだらうか?」

然し来て見て驚いたのは、猛烈なる準備訓練と降下に対する確信と、旺盛なる精神力の発揚をまざ〃と現認出来た事である。
人のやつてゐるのを眼前に眺める時そうだが、写真で見ると尚更平然としやつてのける様にしか見へない。
實際やつてゐる者は必死で而も緊張の極致なのに、自分も幾度となく単独や連続、集團と降下の景況を或は地上より或は機上より見学して、簡単に降下してゐる様にしか思はれなかつた。
でも扨て自分が飛び出すといふ段になると頗る動揺を禁じ得ぬ。
開傘が心配であり、接地が不安となる。
いらぬ取越苦労がとりとめなく台頭する。
初めて飛行機や船に乗つた時、誰もが一應心配するあの不安とはとても比較にならぬ。
万事に神経を細くして平気を粧ふ積でも自づと言動に現はれて、自分でも可笑しい教官や助教、先輩の方々に冷かされる。

気になつた天気も上々で申分ない。
睡眠の足りた身体の調子も良好だ。医務室で例の降下服を着てゐる處へ高級医官殿が顔を出す。
「やりませうよ」
「ウン」
堂々たる降下服姿の二人はどう見ても素人の様ではない。
飛行場に向ふ二人の間には明るい會話が交はされる。
緑の夏草の上を軽く前方廻転二度、三度、大木主計中尉が心理の上原技師と二人連れでやつて来る。
二人共、ニコニコしてゐる。
「どうです」
「いやー」
降下者は揃つて待機する。

離陸は十一時三十分とか。未だ一寸時間がある。
今日は将校練習員と練習員隊が夫々集團降連続降下をやる由、向ふの方に傘を着けて集つてゐる頼母しい勇姿が見へる。
部隊長殿に申告に行くと
「ヤルカネ!どうも新米らしいなー」
と冷かす。
「御覧ください。今に立派な處をお目にかけますから」

整備の出来上つたAT(※九七式輸送機)の下で整備員が待つてゐる。
研究部では小山教官が茂畑中尉と軍刀持参の儘降下の事に就いて協議してゐた。
物料降下は挺進部隊の悩の種である。
殊に衛生材料の効果も問題である。その装着法は全く並大抵ではない。
万一姿勢でも壊はれたら不開傘の椿事がどういふ関係で起らないとも限らぬ。
一番恐ろしいのは何といつても不開傘といふ事だ。
運よく行つても自動索や吊帯に叩かれるのは免れぬ。

聞けば木本中尉も研究降下で我々と一緒に飛ぶらしい。
色々工夫してゐる。
次第に練習員は運ばれて行く。我々の順番は愈々である。
木本中尉の指導で落下傘の装着だ。
一々微に入り細に渡つて点検んされる。そして完全になる。

天晴降下兵姿の一同は、余り好い顔色ではない。
尿意頻数があるのか便所は満員だ。
子供の頃運動會の緊張を想起する。
時間は遂に来た。
十一時二十分、六番降下の高級医官殿を先登に胸を張つて心臓を轟かしてゐるATの尾を廻り腹の中に入つて行く。
愈々初降下の出發だ。

格納庫の前で部隊長殿山野少佐殿多数の先輩諸官と地上勤務員が対空眼鏡の大きい奴を前にして我々の初降下振りを見んものと並んでゐる。
研究降下の木本中尉、機上教官小山少尉が乗込むと出發の警笛一声、機は出發点に滑り出す。
吹流しは低く垂れてゐる。
ガスレバー全開。
砂塵が舞上ると機は完全に浮き上がる。

高度が昇する。
機上の降下者はジーツと奥歯を噛みしめる。
下は〇〇灘(※日向灘)、白い海岸線が南北に長く続く。
海の彼方はハワイかカリホルニヤか、神兵天降る日は果して何時か。

目指す巡航目標は……、高度計は既に五百を指してゐる。
左下方に軽爆一機続行中。
離脱を永遠に祈念する為、特に研究部の取計らいで写真を撮すと云つてゐたので、恐らくその為こうして宮本大尉態々御出馬せられたのか。
無様な離脱はウツカリ出来ぬ。笑ひ者になる恐れありだ。
地球は遙か下の方で運動してゐる。

第二回旋回で第一降下者。
降下準備合図のベルが鳴る。
第一回は木本中尉、高橋少佐殿。
小山少尉は鵜の毛で突いた程の異常まで見逃さぬ。
第二回旋回、〇〇〇の町がマツチ箱の様に行儀よく並んでゐる。
道路も明瞭だ。

高度五五〇で第四旋回、降下経路に進入。
操縦席に声有り。
脚が下りフラツプが降りると急に速度が落ちる。
「ビービー」
「降下用意」
扉を開けると爆音の交響で汽車で鉄橋を渡るときの様に轟いて来る。
真下は飛行場だ。何秒だか可成り長い。
「降下」
ポンと肩を叩かれると吸ひ込まれる様に姿を消す。
全くロボツトと変りない。
続いて一番降下者が飛び出す。
機は飛び出る度に動揺する。

片翼を低めて旋回すると、皆申合せた様に窓に額をつけて下を見る。
アツ開いて居るゐる。
小さいクラゲの様に、呼吸し乍ら泳いでゐる。
「少佐殿は模範姿勢でした」
小山少尉が云ふ。
「好し、俺も屹度やるぞ」
誰もが思ふ。

だが大事な時になつて身体が固くなつてどうも自由が利かぬ。
鉛の靴でもはいた様だ。
高熱の時の様な気惰さはどう仕様もない。
皆の顔色も気の故か幾分青ざめてゐる。
話かけても返事もない。

第二回上原技師、大木主計中尉降下。
大木中尉は瞬間躊躇した様だつたが、再度勇を鼓して決行した。
小さくなつて落ちて行く。
今度こそ我々の番だ。運命は目前に迫る。
出来る丈け大きく呼吸をして努めて平静を粧ふ。
だが駄目だ。

席を立つて小山少尉に主傘、予備傘、そして細部の自動索を点検して貰ふ。
追ひ詰められた様な氣持で一杯だ。
後部の扉の方に重い足を運ぶ。
「大尉殿、降下したらあの山は見へなくなるでせうね」
「うん、見へんだろうなー」
自動索の茄子環を打ちかけ、力強く引つぱつてみる。

第四旋回。
「ビービー」
「降下用意」
強風に圧され気味の右手を手擦りに叩きつける様にして鷲攫。
次いで左手だ。
両足はガツチリ踏ん張られる。
首を出すと頬に烈風が吹きつける。
眼下は緑と黄と褐色の飛行場だ。
人影は見へないが格納庫の前の飛行機と吹流しが實に鮮やかに見へる。

頭を起して並行してゐる軽爆上に注視点を選ぶ。
機上の大尉殿はニコ〃笑つてゐられるのか、白い歯が見へる。
後の方を振り返へつて高級医官殿を見る。

十字点は小さく過ぎた。
一〇〇、二〇〇、三〇〇米通り越す。
「降下」
肩が鳴る。
「行くぞ、イヤツ」
「一ツ、二ツ、三ツ、四ツ……」
柔い布團に飛込んだ様に氣持よい落下だ。
「ポン」
軽い快い衝撃が五体に響く。
伸び切つた姿勢は軽く振られて静かに降る。
何も聞へず何も見へぬ。傘の点検にと仰ぎ見る。
講堂教官の諸注意が浮んで来る。
色々とやつてみた。
旋回、滑空。下は遠い。
まだ〃。
再び仰ぐ目に、傘体を流れる数本の吊索が脈管の様だ。
排気口の丸い穴からコパルト色の空が綺麗だ。

「異常なし」
予備傘の離脱も出来た。
落付いた平和な感じが湧き出てくる。手足を動かして見るが伸び伸びとした様だ。
ブランコより呑気だぞ。
羽衣の天人を思ひ出し、精一杯どなつて謡つてみたくなる。
「いかん〃、未だ着地の心配があるんだ。何を呑気に」
距離の目測はどうも出来ぬ。人の姿は見へない。太平洋が一枚に平たく見へる。
地上から「予備傘落せ」と怒鳴る。
此れでも五十かな。
手動索の赤い奴を引いて左方へ落す。
「シュール〃」
「バタン」
着いたぞ。


二十米、三十米、吊索の前方をグツーと引張る。
五米、二米……。
アツ、身体が倒れる。脚が前に滑り出た。
踵と尻と肩とが殆ど同時に前方に三点着陸で滑走する。
素早く立上つて傘を鎮める。上手に降りたぞ。
突風に流された事が返つて幸運だつた。

回転は出来なかつたが打撲症状は一つもない。
見よ、今こそ我等は地上に在るのだ。
地上勤務員が飛んで来る。
教官が、先輩が
「お目出度う」
「よかつたですね」
「離脱は實に立派な模範姿勢でしたよ」
「どうもありませんか」

「皆有難う。よく心配してくれましたね」
「お蔭様無事終りました」
感激だ。感謝だ。九死に一生を得た様なホツトした様な悦びに浸る。
緑の草原を渡る爽やかな微風は心地よく上気した頬を撫る。
一本の煙草が實に美味い。
到頭我々も降下したんだ。俺も降下が出来たんだ。
今日からは降下者なんだ。
得難い降下の貴重な体験は恙無く終つたのだ。

向ふから迎への乗用車が疾走して来る。
皆無事だつた。
一同揃つて召集に遅れた晝食を口にする。
医務室で降下服を脱ぎ、尿蛋白、血沈、血圧を測定し小休止。
帰へりの汽車の中で幾分、頭重を感じたがそれも知らぬうちに治つてゐた。

降下兵の目的は戦斗である。
降下ではない。
いや、開傘や着地ではない、降下後の戦だ。
我々に取つては降下後の衛生勤務なのだ。
我々の努力に任務に前途は洋々としてゐる。

終り
関連記事
スポンサーサイト

トラックバック

トラックバック一覧

コメント一覧

コメントの投稿

名前

タイトル

メールアドレス

URL

本文

パスワード

非公開コメント管理者にだけ表示を許可する

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。