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落下傘塔からの初降下

Category : 空挺隊員の証言 |

長い〃血のにじむ様な地上猛訓練が終りに近づく頃には、練習員達は真黒に日焦けした皮膚にピチ〃と躍る弾力と黒ダイヤを見る様な光澤を呈し、四肢の筋肉がムク〃と盛上つて見るからに頼母しく健康そうで、而も自信満々の様子である。
この頃見学の為部隊を訪れる人々は、彼等の不敵の面魂、立派な体躯、栗鼠の様に敏捷な動作、キビ〃と節度正しい言語態度に驚異と陶酔とを感ずるに相違ない。

然しこの何物をも恐れぬげに見ゆる若者達の胸裏を覗いて見ると、其處には言語に絶した苦悶があることが判る。
それは未知の降下に對する(それはもう旬日の後に迫つている)興奮、不安、確信等の縺れ合つた混然として複雑なる精神状態である。
落下傘塔降下にさへ緊張と不安との伴つた大なる興奮を感ずる。
いくら平静を装つて見ても、純白の絹の落下傘と共にワイヤーによつて引上げられて行く練習員の顔からは潮の引く様に血の気が薄れて行くのが見られ、瞳孔が怪しく光つて時には顔面筋肉の痙攣さへ見えるのである。
試に脈搏を数へて見ると、二〇―三〇の増加を示すのがざらにある。

切放された傘が菊の花の様、多弁な圓周を見事に開き、降下兵は偉大なる奇蹟に遭遇したとでも言いたげな面持ちで、呆然と頭上に蔽ひかぶさつた純白の傘を見上げている。
平易な満足りた氣持である。
静寂と無我の一瞬が過ると、地上からの雑音が遠い奈落からの潮騒の様に迫つて来る。
我に返ると教官の種々の注意や要求が次々と頭に浮んでくる。急いで下を向いて距離目測をし、接地の準備をする。
地上教官のメガフオンが注意事項を叫ぶ。
一安心した氣持が再びグツと引締まる。

足をつけ膝を曲げ、よしと思ふ間もなく芝生の上にコロ〃と投げ出される。
ゴムマリの様に、そうだ上手にゴムマリの様に。
地上勤務員が駆け寄つて来る。「お芽出度う」「御苦労様」等叫び乍ら。

急に嬉しさが込上げて来る。押へても〃押へ切れぬ嬉しさである。
「大したことはないよ」とか「愉快!!愉快!!」等と言つて見たくなる。然し心臓は相変らず、ゴト〃と早鐘を打つているし脈搏はズー〃と流れる様に数を増してゐる。

落下傘塔降下でさへこんなである。
まして蒼空深く駆け上つて、宙に懸つた浮城から支へも手答へもない夢の様に頼りない空間に身を躍せて落込んで行く。
誠に無関心で居られる筈がない。
降下訓練を前にしての練習員の胸中を去来するものは、寝ても起きてもこの「降下」一事のみと言つても過言ではない。
この心的不安、興奮が肉体上に、又精神上にどんな反應を示すだらうか。
以下項を追つて説明する。

「降下の身心に及ぼす影響」より 第一挺進團司令部述
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跳下ノ感想

Category : 空挺隊員の証言 |

陸軍落下傘部隊では、空挺隊員の身体および心理面におけるデータを大量に集めて分析していました。
得られたデータを隊員の選抜基準などにしていたのです。
また、実戦での降下に役立てる意味もあったのでしょう。

初降下時の心理状態を探るため、専門知識を持つ衛生隊員の「自己分析」も集められていました。
ここでは、その貴重な証言の数々を掲載しましょう。
新田原飛行場を飛び立ってから、塩付降下場へパラシュート降下するまでのルートも窺い知ることができます。





跳下感想ヲ落下傘兵ノ跳下ニ関スル一般感想ト黎明跳下見学ノ感想ト前日ノ感想ト飛行機搭乗直前ノ感想トニ區別シテ論述セムトス。

唐瀬原陸軍病院「挺進兵選兵對策」より

第一項 落下傘兵の跳下に関する感想
落下傘兵四四六名につき跳下に関する感想を聞くと、無事降下がニ八.九%、着地姿勢のよくなること四.ニ%、開傘が非常に長く思はれる者八.一%、傘の操縦に興味を持つものが五.四%、早やく降下したい氣持一杯のため飛行機内に居るのが嫌ひとなる三.一%、ブザーの音が嫌ひとなる二.四%、何回降下しても不安のとれぬ者二.四%、開傘に不安のある者二.四%、開傘のときは父母に會つたときの様に嬉しい二.一%、開傘より着地が心配二.一%、市井のうつりかはりが解る二.一%、飛行機内で眠気がする二.一%にして、斯くの如く種々雑多な感情が起つて来る様である。
参考として、感想表と個人感情の例證を記述せり。

落下傘兵の跳下に関する感想
落下傘兵四四六名に関する自己反省による感想を見るならば、次の如き事実を得たり。

感情の種類・實数・割合
段々嫌ひとなる 三 〇.九%
予備傘を離すのが困難 四 一.二%
生命の歓喜 一 〇.三%
開傘衝撃へ恐怖 九 二.七%
慎重に降下しなければ失敗すると思ふ 一 〇.三%
降下後身体がだるくなつた者 一 〇.三%
早く降下したい氣持一杯のため機中に居るのが嫌ひ 一〇 三.一%
開傘より着地が心配 七 二.一%
戦友の負傷を思ひ出す 三 〇.九%
ブザーの音が嫌ひ 八 二.四%
開傘と同時に頭を打たる 一 〇.三%
兵の開傘を思ふ様になつた 二 〇.六%
予備傘を使用した者 一 〇.三%
腹わたをかきまわされた 一 〇.三%
地方新聞に落下傘部隊の記事が載つて居た為、勇気が出た 一 〇.三%
搭乗中あまり帯を締ると吐気がする 一 〇.三%
頭が下向になつた時衝撃あり 二 〇.六%
開傘後は常に愉快 四 一.二%
着地と同時に萬歳を唱ふ 二 〇.六%
降下中吐気がする者 二 〇.六%
跳び出す迄は嫌だつたが跳びだしてしまへば愉快 一 〇.三%
無事降下 九六 二八.九%
最後の降下の為張切つて行ふ 二 〇.六%
自動索やけいし紐の處より切れるを感ず 二 〇.六%
戦友に後れまいとする氣持で一杯 四 一.二%
姿勢のうつりかわりが解る 七 二.一%
足を揃へなかつた為捻挫 一 〇.三%
風圧が強い為嫌な氣持 三 〇.九%
精神動揺 八 二.四%
自信がつき早まつて跳出し失敗 二 〇.六%
空中浮遊が嫌ひ 一 〇.三%
上昇気流が恐しい 二 〇.六%
ドアが開いた時恐怖感あり 二 〇.六%
(現在作成中)

東宝映画「加藤隼戦闘隊」撮影録

Category : 空挺隊員の証言 |

昭和19年3月に公開された東宝映画「加藤隼戦闘隊」。
映画に登場するパレンバン降下作戦のシーンは、「空の神兵」と同じく唐瀬原の塩付降下場で撮影されました。
宮崎県での撮影は、陸軍空挺部隊の全面協力の下でおこなわれます。
エキストラとして降下したのは、新設されて1年余となる挺進第3聯隊及び第4聯隊。
これらの隊員から聴取した撮影前日から降下直前までの心理について、様々な記録が残されています。

川南空挺基地にあった唐瀬原陸軍病院では、空挺隊員の心身両面にわたるデータを大量に収集分析していました。

この年の秋、挺進第3連隊と第4連隊で構成される第2挺進團「高千穂空挺隊」はレイテ島へ出撃。
米軍との戦闘で両連隊とも白井・斉田連隊長以下多数を失うという損害を蒙ります。



映画撮影前日の感想 

跳下前日の跳下を概括的と個別的例証とに區別せむとす。

一、概括
西部一一八部隊(挺進第三聯隊)

自信 15名
1.一回一回自信が増す喜び 2名
2.平常心 5名
3.自信 8名
不安 14名
1.若干の不安 5名
2.着地の心配 1名
3.一年振で氣持が平穏ならず 4名
4.跳下離脱姿勢の心配 1名
5.平気を装ふ氣持 2名
6.前回を想ひ冷汗を覚え 1名
覚悟 16名
1.萬一を懸念して身辺を整理す 1名
2.爾後奉公の影響を慮り事故絶無を期す 1名
3.萬一を懸念して父母友輩に便りを書く 1名
4.決意(思い残すことない) 2名
5.体衣服を潔め母からの御守を身につく 1名
6.やるぞ決意 6名
不快 3名
1.ガソリン臭厭で苦しみ 1名
2.恐ろしい様な厭な様な氣持 1名
3.早く降下して降下前の氣持を抜たい 1名
心の動揺 11名
1.飛行場で発動機の運転音やガソリン臭に心が乱れる 1名
2.第一回の折の感想を忘れ得ず 1名
3.何となく胸が躍動する 3名
4.急な命令に驚愕した 1名
5.降下前に對して楽な気持になりたい 1名
6.人の降下を見ると降下したい自分と決る様な氣持になる 1名
7.延期した時は生き延びた氣持になつた 1名
8.跳下瞬時は名状し難い氣持 1名
9.明日のことのみで頭が一杯 1名
誇り又は喜び・熱意又は緊張 28名
1.挺進兵の意気を現せ 3名
2.栄光ある軍神加藤の映畫に微力ながら協力の出来る喜び 12名
3.雨天続きで気抜 2名
4.雀喜躍動 2名
5.明日を迎ふる喜び 1名
6.映畫として全國民に見られると思と緊張 6名
7.一刻も早く降下したい(待遠しい) 2名
8.立派にやつて映畫として國民に感銘を与えたい 1名
9.挺進兵としての任務感 3名
10.映畫なれば一層立派にせなければならぬ 1名
11.人より降下回数の多くなる喜び 1名
12.跳下したかつたので嬉しい 2名
13.跳下瞬間の矜持を持つ 2名
14.年に一回は降りたかつたので嬉しい 2名
15.挺進兵として跳下し得る事の喜び 3名
16.愉快 4名
其他の感想
1.準備注意を全うし無事終了を待つ 2名
2.天候気流の心配 3名
3.明日は愈々降下の念 5名
4.気にかゝらず 1名
5.元気でやりたい 2名
6.十回は跳びたい 1名
7.久しぶりだ 12名
8.人間的感じを超越した爽快感 5名
9.立派に終了したい 1名
10.又かの思い 1名
11.雨天延期で残念 1名
12.達成せんことを祈る 1名
13.映畫に出るのは莫迦げて居るけれど軍神加藤映畫なる故に思い返して跳下を元気に終らんと思ふ 2名

西部第一一九部隊(挺進第四聯隊)

自信 23名
1.傘は信頼自信満々 15名
2.傘は必開の信念 1名
3.平常の心 5名
4.無感想 2名
不安 15名
1.矢張り傘や姿勢の事が気にかかる 6名
2.跳下する時は人間の氣持はしない 1名
3.胸が一パイになる 1名
4.平気をよそつて居る気だ 2名
5.天候のため日延となるにつれて畳んだ傘が何となく心配になる 2名
6.若干の心配(無事を祈る) 1名
7.降下をしらされてハツと思ふ 1名
8.瞬間的な光景を想起すると一縷の不安を禁じ得ない 1名
覚悟 14名
1.任務の自覚に体が引締る 1名
2.萬一を思い身辺を整理す 1名
3.遺書の事も考へたが今朝になつて止めた 1名
4.成否は天にまかせて 2名
5.腹が定つた 2名
6.陛下の軍人たる自分の回顧 5名
7.降下は決死肉弾突撃の氣持 1名
8.運命感を持つ 1名
動揺・異常 5名
1.日常物事を常より事新く感ず 1名
2.名状し難い氣持がする 1名
3.降下直後及びグン〃降下する時の名状しがたいこわい様な何とも云ひ様のない気持ちを思ひ出す 2名
4.天候の都合で跳下場の上まで来て中止して帰る様なことがなければよい。そんな場合の精神的疲労は茲には語れない 1名
喜び 4名
1.挺進兵たる自覚と誇を新にする 3名
2.跳下出来る幸福感 1名
其の他の感想 16名
1.降下の神聖感 1名
2.久し振りの感 6名
3.明日は跳下だ 1名
4.天候を心配す 4名
5.あの瞬間の姿勢は自分乍ら實に尊いものに思へる 1名
6.訓練事項の一ツ一ツを回想する 1名
7.除隊迄あと一度は降下したかつた 1名
8.只演習の感がする 1名
雑感 3名
1.女の聯想 1名
2.帝國の最精鋭将兵が単に映畫として撮影のため跳下するのは何となく莫迦らしい 1名
3.酒保の甘酒が早く飲みたい 1名

唐瀬原陸軍病院

……第4連隊には正直な人が多いですね。

降下前日の感想・挺進第3連隊員内田某

私は今侘しい電燈の下で明日の降下の事を真検に考へて居る。
あの大空よりあの愛機より吾〃が跳を決して飛出すのだ。
私は今日故郷の父母と世話になつた先輩達に便を出した。降下を明日に控え萬一の事が懸念されるからである。
吾〃の体は本より陛下に捧げまつゝたもの、何處で斃れようと何の悔もない。
唯軍人らしく最期を内の者に傳上たいからだ。
最後になる様な入浴も終つた、ひげもそつた、肌着も褌も全部新しいものと取替た。
窓を開けるとひんやりと冷たい風が流れて来る。
明日は上天気らしい。星が無類にきらめいて居る。
戦友達はもう夢を追つて居る。私は此の間母が頂いて送つてくれた御守をしつかりと身にだきしめながら床に就いた。


挺進第3聯隊員湯本某

強烈な風圧に敢然跳下窓を跳て空中に飛躍する一瞬、この真に挺進兵としての矜持あり。
快哉〃。
只今此の命を受けて勇躍本領を発揮せんが思ふだに、身の緊張を憶えたり。
まざ〃と浮びしは入隊當初の猛烈果敢なる跳下訓練を招来各種跳下に方りての尊き教訓を忘れかや、心に残るもの何もなし。
唯氣魄実行のみ。想此處に致し今日の跳下たるや正に吾にとりて深く肝銘すべき秋なり。
実戦に非ずして参戦準備に邁進感なきを期す所なり。心固まれり。
来たるべき栄ある日に備えて勇飛せん。

挺進第3聯隊員柴田某

我等の任務たる跳下に對し日頃訓練の一端に報ひん。
一線を遙に離れた此地日向にありて来たるべき日を待つて訓練に励む我等は、一線の戦友の様に落日孤城に敢然と第一線を死守する様な強い姿はないにしても、我等の心は勝ともつかることなし。
戦友の區別もない我等は唯情と愛と血の中に育まれ凡に道徳を超越したものに落つけいるのだ。
風粛として易し。壮士一度去つて遷らじか、國民の大なる期待をされて帰る時に益〃此の跳下を他に許されない。
我々のみに与へたるものである。
故に誉として今日の跳下にのぞむ。

挺進第3連隊員奥井某

愈々降下。
余りにもにわかなる命令にて、自分も少しおた〃した。何となく恐しい様ないやな様な氣持がする。
「恐しいイヤだ」と思ふだろうとが実際かざり氣のない所だろう。しかし我々は挺進兵である。挺進兵は呼んで字の通り身を挺すると言ふ事である。
何も恐れることではない。あくまで自分の職務を、いや挺進兵の本分を盡さねばならぬと固く心に誓つた。
自分と言ふ男にかけても是非立派に降下して見せるぞ。
そうして帝國國民に軍神加藤少将閣下の気魄を植え付けなければならない。
別に感想としてもこれ位のものだ。
初めての降下の様に感想がない。

挺進第3聯隊員緒方某

今日は愈々跳下だ。
我我は跳下することに依て戦斗は實施される。
第七回目であるので跳下其のものには馴たが、氣持だけは何時も変た事はないが、ガソリンのいやな臭は自分としても唯一の苦しみを感じるのである。
今日もヤーア!の一声に依り跳下するのだ。


挺進第4聯隊員鳥井某

愈々翌日は跳下だ。
何分地上訓練及び降下には自信あると思つて居るが、なにしろ五百米の高度より降下するのであるから、何分人間の氣持はしないものです。
又傘には絶對自信を持つてヰる。何の氣持も出らない。

挺進第4聯隊員磯田某

明日は又吾等の降下である。
待に待つた降下である。
日本男子として生し来て、これ程嬉しい事はない。又大日本帝國の一員として元気で行こうと心に誓ふ。
傘は絶對に安心だ。信頼して跳出せるぞ。
今迄の體験で自信がある。
自分達はもう一人前の落下傘兵であるといふ事を深く思ひ込んで忘れない。


挺進第4聯隊栗原某

愈々跳下は目前に迫つて居る。
幾分の不安はあるけれども傘と自分の心身を信じてゐる自分である。
出来るなら美しい姿勢で跳びたいものと願つてゐる。
あの瞬間の姿は自分ながらも尊いものに思へる。天のみが知る我々の運命である。
我々は信じきつた姿で跳べばよいのである。
大后に捧げた命、何悔ゆることがあらう。
忠に生き忠に死すのが最大の願ひなのである。
空よ地よ美しくあれ。

挺進第4聯隊員粟妻某

或る朝の事である。
聯隊長殿より降下するとの通知あり。其の直後は自分も長く降下を止めて居た為気が引さがりましたが、一度降下する事に腹が定まると別に通り過ぎし事を返す事にて心配する事余り少く、明日降下するのに此まで落ついていいのか其の事にかへつて心配する程である。
傘には必開の心念もある為めであろう。

挺進第4聯隊員入田某

再び降下が来た。
数回に経験を持つ自分なれど矢張り人間共通の感情はまぬがれない。
開傘は自分も承知なれど、過去にあの瞬間的な光景を想起すると一縷の不安も禁ずるを得ない。
但しこうした氣持に依り降下の時機をおくれたり、ちゆうちよする様な事は絶對ない。こうした氣持は己が輸送機に搭乗する時すでに一掃されたのが今迄の持つ経験である。
唯、人も真に感情を吐露するならば金言美句しないこと。

挺進第4聯隊員吉野某

降下訓練の済で早一年余月。
降下演習をやらない當時、人の降下を見た時俺も降下したいと思ひついた時。
本當に明日は降下なのだ、傘は信じて居る。
あの降下直前の氣持も有り〃と思ひ出されるが離脱してからの傘が開いて降りて来る時の氣持は誰に知れ様。
我々のみが飛び出す時の氣持、こはいといをうか、何とも地上に着く間の氣持其の味を知るものはきつと落下傘兵のみであらう。



さてその翌日、降下直前の感想を。
前日と違って第4聯隊は除外。
降下直前の感想もいずれも短いものなので、一緒に掲載しておきます


飛行機搭乗直前の感想

飛行機搭乗時間前に新田原飛行場に於て跳下準備の一切出来た挺進兵についてその時の感想をその場で記述せしむると、
不安動揺大なる者は三二、〇九%、喜び熱意緊張覚悟の感想は二四、五%である。
今それを概括的表と例証として示す。

西部第一一八部隊

自信  七名 八.六四%
・挺進兵の意気の自覚・自負 四名
・断行の意気旺盛 一名
・自信 二名

不安動揺に大 六名 三二.〇九%
・どうでもなれの一瞬 一名
・どうでもなれの緊張感 一名
・跳下直前の事が脳裏に浮ぶ 一名
・この位のことと思へど中々容易ならず 一名
・時間を待つのが厭になる 一名
・飛行機上下の心配 一名
・願つては降下したくない 一名
・跳下接迫を負に感ず 一名
・エンヂンの音により跳下を想起すると心がみだれる 一名
・落ちつかず 一名
・無事に終りたい 三名
・早く終りたい 三名
・胸の動悸が高まる 二名
・気持ちが幾らか変る 一名
・死生感を覚え、何となく氣持が悪い 一名
・飛行場に来ると若干腰が痛み小便が多くなる 一名
・待機時間が長くて待遠しい 三名
エンヂンの音で跳下直前が思はれる  不明

覚悟 一四名 一七.二八%
・元気に跳下せん 七名
・立派に終りたい 一名
・任務感 一名
・目的を遺憾なく発揮せん 一名
・旺盛なる気魄を以て遂行せん 三名
・大君の為なり 一名

判読不能  名 %
・快味を思ふ愉快さ 一名
・総て国を想ふ心より 一名
・久方振りで嬉しい 二名
・国民に観られると元気が溢れる 一名
・待ち兼ねた跳下だ 一名
・軍神映画参加の光栄感 二名
・張切つて終らん 四名
・晴天に嬉しく思ふ 二名

他の感想 十七名 一〇.九八%
・平常と異ならず 五名
・無感想 一名
・場内のガソリンの臭が厭だ 一名 
・何くそと云ひたい・元気でやりたい 一名
・気流の心配 二名
・搭乗を待つのみ 二名

雑感 三名 三七.〇三%
・後三十分だ 一名
・只跳べばよいのだ 一名
・離脱着地姿勢が良好でありたい 一名
・今迄にない落付いた氣持 一名
・傘の操縦空中間の意識をしつかりして見よう 一名
・日向ぼつこをしながら搭乗を待つ 一名
・前回と飛行場の風景が変化した 一名
・映画の為ならず軍神加藤の活躍を生さんためなり 一名


村上某
跳下を直前にして只無事に任務の完遂を思ふ。

竹内某
跳下直前の事が脳裏に浮んで来る。其の他は平常通り。

竹久某
過去の自信を以て元気に終らんと思ふ。

原田某
吾が誇りとする。又も跳下時機到来、大地を眼下に見下し快気を味ふと思ふと、愉快でならない。
我が先輩の活躍振りを生すも皆我の双肩にあり、だ。

姫野某
後何程もなく降下決定せねばならぬ。氣持は平常と変りなく、異常に落付いて居る様な気もするが、緊張せざるを得ない。
どうにもなれ。
唯、降下を断行せんとの意気旺盛なり。

柏原某
跳下を前にして搭乗の時間を待つばかり。氣持は平常と変りなし。

高橋某
跳下の接迫せしを身に感じ、発動機関の廻転音を聴くに何となく過し、跳下を想起すると何分心の乱れを来たす。
然し今日の跳下も傘に信頼し、之の気で行ふ。
張切つて居る。
今日の跳下へ何等の懸念することなく、平常の氣持ちと変りなし。

?坪某(一字判読不能)
愈々目指す新田原飛行場に来たる。昨日迄の雨模様はすつかり晴れて、絶好の跳下日和だ。今迄にない落付いた氣持ちだ。
今日はいやなガソリンのにほいもない。格納庫前で日向ぼつこをしながら搭乗を待つ。

武井某
出発直前隊将校より大胆にしかも細心の注意を以て元気にやつてこいといわれた。搭乗機より飛び出る時はただ大君の為にやるぞそれのみである。

早坂某
今日の跳下は五回目だが、何等心の変りは前の跳下と同じである。只跳下時は父母兄弟又郷里を忘れ、任務を完遂するのみ。

森国某
唯元気一ぱいで飛降りるだけの心境なり。飛行場に来て身振りの降下同じ氣持である。

印刷劣化で判読不能
何ヶ月振りの跳下演習に於て、訓練當時が思ひ出される。我には死生をちやうえつしたりといへども、やはり生をうけている以上、なんだか氣持ちの悪い様に思はれる。

大西某
心境には特別なる変化なけれども、約十ヶ月目の跳下故、左記事項(※唐瀬陸軍病院によるアンケート)に就き感想を得。
離脱時の姿勢良好なりや、着地動作良好なりや。

石?某(一字判読不能)
絶好の跳下日和、隼の援護とは心強き限り。元気で跳ぶぞ。

小林博某
三日延期の跳下も今日は来る。一年振りの跳下だが別に感ずることなし。只雨天後の今日のことなれば、飛行中の上下の移動なきや否やを心配するのみ。

岩井某
ナニクソと言ひたひ様な元気で跳下してみたいと思ふ。

緒方某
何回跳下するも飛行場に来るとガソリンの強い臭気が急にいやになる。跳下そのものは別にどういふ起らないが、平常に比べると氣持ちは普通に変る。

唐瀬原陸軍病院

其の一 陸軍々医大尉 ○田○次

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落下傘部隊衛生部員ハ戦闘員デアル
将校以下一般兵ニ伍シテ猛烈ナル降下訓練ヲ受ケ
戦場ニ在リテハ且ツ救護シ八面六臂ノ活躍ヲ要スル
茲ニ記録若干ヲ集輯シテ其活躍振ヲ紹介セントスルモノデアル


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第一章 降下體験記 其ノ一 陸軍々医大尉 ○田○次(※原文伏字)

春霞深く地上風速五米突、時に突風あり。長らく期待してゐた最初の単降下の日である。朝からぽか〃と春風駘蕩として山には春霞柵引き畠には蓮華や菜の花が花畠の様に咲き乱れてゐる小春日和である。
午前中、地上準備訓練として(一)落下傘の装着法(ニ)落下傘の使用法(三)降下準備用意(四)機胴台訓練等の教育を受け、愈々十三時教官及部隊長殿の諸注意あつて、定められた搭乗区分により十三時三十分、吾等の搭乗機は飛行場より東南方に向ひ離陸した。
高度三百米突、眼下は既に○○○の真白い海岸線が東西に長く春霞にかすんで続いておる。機種は左に大きく旋回し高度約五○○町の上空を通り、南の山腹にかゝり、西へ西へと進む。
機上では、教官の諸注意や経験者の色々な話でいともなごやかな様だが、未経験者の吾々は比較的平気を装うても一抹の不安を消すことが出来ない。ビービービーと降下場進入の相図だ。軈てビービーと二度目の合図。降下準備!
吉田中尉がドアーを開け、鐶をかけ、左手に軍刀を握りながら降下用意。教官の羽山少尉が説明するに「吉田中尉はいつも頭が下り余り模範的な姿勢ではないから、その積りで見る様に」と云うふと、吉田中尉は「馬鹿云ふな、今日は軍刀を持つて居るから仕方がない」と冗談を云つて居つたかと思ふ間に歯を食ひしばつてパツト飛び降りた。
軍刀を持つた左手に矢張り力が入つたと見えて左に大きく捻れ、身体も左に稍旋回しグル〃落ちて行つたが、やがて機体の後ろに姿を没した。
偏流の測定を終つて、やがて機は降下場を一旋回し、第二回目の進入。
高橋准尉は数回の経験者だけあつて落ちついてゐる。離脱姿勢もよく伸が模範的であつた。井田伍長は初めてなので気合が入つてゐたが、足の踏切りが悪く丸くなつて落下して行つたが傘はうまく開いた。
飛行機は第三回目の旋回。小川中尉が小生と横川中尉の脈搏測定。まだ〃落ちついてゐる積り。暫く振りでAFに乗つた性か何となく軽い倦怠感を伴つた頼りどころのない様な緊張を覚へた。ビービービー。愈々小生の番がやつて来た。
今度は他ごとではなくなつた。何だか余りにも早く自分の番がやつて来た様な気がする。ちよつと気持が悪い。今少し躊躇して降下を中止して帰つたら、臆病者と云つて嘸笑はれるだろうとちよつと考へて見る。

降下準備!茄子環を掛け扉を開け降下用意の號令と共に手と足をかけ、地上を見る。爆音と共にすさまじい風がビユーと身体に吹きつける。未だ〃時間があると教官が云ふ。心臓の鼓動がかなり早い。
此の時、プルス(脈搏)を計る方法があつたらと考へかけ、中尉に話してみる。地上を足下に見ながら離脱姿勢をとつてゐるのは、余りにも長い感じだ。
愈々降下場進入。まだ〃、あの白いマークの上に来たなら相図しますと教官が云ふ。

愈々来た降下!右肩を叩かれる。すぐに飛べない。もう一度腹に力を入れ、水平線の山を見ながら無念無想の気持ちでパツト飛び出した。自分では余程前へ飛び出した積りだが、腹が凹んで姿勢が崩れた感じ。軈て肩の當りに「ガン」と衝撃があつた。
あー開いたなと思つて地上を見た。爆音は既に遠のいて周囲は急に静寂になつた。暫くは夢中で何も見えない。予備傘を取りはづしたが、右の環がなか〃離れない。右足を縮めてやつとはづして下を見た。右鼠蹊部に縛帯が喰ひ込みかなり痛い。
地上勤務員があちこち飛び廻つてゐる。傘の取はづしに余りにも時間をかけ、最早や地上に近い。足!足!と地上で誰かが怒鳴つてゐる。股に深く帯が食ひ込んでゐるため、足が開いたまゝどうしても膝がつかない。
地上二、三十米で突風に合ひ急に二、三十米東に流され左側方に大きく揺られながら接地。
ゴロ〃とニ、三回側方回転、山野少佐殿と衛生部員が上衣を脱いで何か喚きながら駈けてくる。
山野少佐殿が大丈夫か〃と云つて居られた。
すぐ立上つて傘の右側より風下へ廻る。
嗚呼、やつと大地に着いた。一安心と云つたかたち。

「大丈夫か」ともう一度云はれる。
「とんでもなく流されたな」
何となく嬉しくなつて一人でにや〃笑つてみる。
金曜日の厄日も又、池田中尉母堂の命日も無事に済んだ様だ。

【附訳】
以上は最初の降下体験として軍医分團研究會に於て発表した抄録に過ぎません。
外國の文献に依りますと、降下時にはかなりの興奮と不安感を伴ひ、暫く聴力が消失するとか又、意識障碍として落下する感覚が消失するとかありますが、個人飛行時間とか各種器官の鍛錬により相異するものと思はれます。
事實、小生などは任官以来航空部隊にばかり居りましたお蔭で相當時間乗つて居りますし、又水泳特にダイビング、スキー、スケート等をやつたゝめか聴力の消失も意識障碍もなかつた様です。

又、民族的にも色々と異なる点があり、日本人は特に降下に何しろ適して居るのではないかと思はれます。
之から色々と体験・研究し別に発表する機會もあると思ひます。



其の二 陸軍軍医中尉 ○英○

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命令を貰つてすつかり驚いた。余りにも変つた方向だつたので、先づ一体どんな部隊か想像を逞しくしてみた。
兵業とか勤務とか。そして降下するといふ問題に「ヒアツー」とした。
「一体我々も降下するのだらうか」
「勿論降りなきや衛生勤務は完遂出来ぬ」
「だが行つて直ぐ降りるなんて事が出来るだらうか?」

然し来て見て驚いたのは、猛烈なる準備訓練と降下に対する確信と、旺盛なる精神力の発揚をまざ〃と現認出来た事である。
人のやつてゐるのを眼前に眺める時そうだが、写真で見ると尚更平然としやつてのける様にしか見へない。
實際やつてゐる者は必死で而も緊張の極致なのに、自分も幾度となく単独や連続、集團と降下の景況を或は地上より或は機上より見学して、簡単に降下してゐる様にしか思はれなかつた。
でも扨て自分が飛び出すといふ段になると頗る動揺を禁じ得ぬ。
開傘が心配であり、接地が不安となる。
いらぬ取越苦労がとりとめなく台頭する。
初めて飛行機や船に乗つた時、誰もが一應心配するあの不安とはとても比較にならぬ。
万事に神経を細くして平気を粧ふ積でも自づと言動に現はれて、自分でも可笑しい教官や助教、先輩の方々に冷かされる。

気になつた天気も上々で申分ない。
睡眠の足りた身体の調子も良好だ。医務室で例の降下服を着てゐる處へ高級医官殿が顔を出す。
「やりませうよ」
「ウン」
堂々たる降下服姿の二人はどう見ても素人の様ではない。
飛行場に向ふ二人の間には明るい會話が交はされる。
緑の夏草の上を軽く前方廻転二度、三度、大木主計中尉が心理の上原技師と二人連れでやつて来る。
二人共、ニコニコしてゐる。
「どうです」
「いやー」
降下者は揃つて待機する。

離陸は十一時三十分とか。未だ一寸時間がある。
今日は将校練習員と練習員隊が夫々集團降連続降下をやる由、向ふの方に傘を着けて集つてゐる頼母しい勇姿が見へる。
部隊長殿に申告に行くと
「ヤルカネ!どうも新米らしいなー」
と冷かす。
「御覧ください。今に立派な處をお目にかけますから」

整備の出来上つたAT(※九七式輸送機)の下で整備員が待つてゐる。
研究部では小山教官が茂畑中尉と軍刀持参の儘降下の事に就いて協議してゐた。
物料降下は挺進部隊の悩の種である。
殊に衛生材料の効果も問題である。その装着法は全く並大抵ではない。
万一姿勢でも壊はれたら不開傘の椿事がどういふ関係で起らないとも限らぬ。
一番恐ろしいのは何といつても不開傘といふ事だ。
運よく行つても自動索や吊帯に叩かれるのは免れぬ。

聞けば木本中尉も研究降下で我々と一緒に飛ぶらしい。
色々工夫してゐる。
次第に練習員は運ばれて行く。我々の順番は愈々である。
木本中尉の指導で落下傘の装着だ。
一々微に入り細に渡つて点検んされる。そして完全になる。

天晴降下兵姿の一同は、余り好い顔色ではない。
尿意頻数があるのか便所は満員だ。
子供の頃運動會の緊張を想起する。
時間は遂に来た。
十一時二十分、六番降下の高級医官殿を先登に胸を張つて心臓を轟かしてゐるATの尾を廻り腹の中に入つて行く。
愈々初降下の出發だ。

格納庫の前で部隊長殿山野少佐殿多数の先輩諸官と地上勤務員が対空眼鏡の大きい奴を前にして我々の初降下振りを見んものと並んでゐる。
研究降下の木本中尉、機上教官小山少尉が乗込むと出發の警笛一声、機は出發点に滑り出す。
吹流しは低く垂れてゐる。
ガスレバー全開。
砂塵が舞上ると機は完全に浮き上がる。

高度が昇する。
機上の降下者はジーツと奥歯を噛みしめる。
下は〇〇灘(※日向灘)、白い海岸線が南北に長く続く。
海の彼方はハワイかカリホルニヤか、神兵天降る日は果して何時か。

目指す巡航目標は……、高度計は既に五百を指してゐる。
左下方に軽爆一機続行中。
離脱を永遠に祈念する為、特に研究部の取計らいで写真を撮すと云つてゐたので、恐らくその為こうして宮本大尉態々御出馬せられたのか。
無様な離脱はウツカリ出来ぬ。笑ひ者になる恐れありだ。
地球は遙か下の方で運動してゐる。

第二回旋回で第一降下者。
降下準備合図のベルが鳴る。
第一回は木本中尉、高橋少佐殿。
小山少尉は鵜の毛で突いた程の異常まで見逃さぬ。
第二回旋回、〇〇〇の町がマツチ箱の様に行儀よく並んでゐる。
道路も明瞭だ。

高度五五〇で第四旋回、降下経路に進入。
操縦席に声有り。
脚が下りフラツプが降りると急に速度が落ちる。
「ビービー」
「降下用意」
扉を開けると爆音の交響で汽車で鉄橋を渡るときの様に轟いて来る。
真下は飛行場だ。何秒だか可成り長い。
「降下」
ポンと肩を叩かれると吸ひ込まれる様に姿を消す。
全くロボツトと変りない。
続いて一番降下者が飛び出す。
機は飛び出る度に動揺する。

片翼を低めて旋回すると、皆申合せた様に窓に額をつけて下を見る。
アツ開いて居るゐる。
小さいクラゲの様に、呼吸し乍ら泳いでゐる。
「少佐殿は模範姿勢でした」
小山少尉が云ふ。
「好し、俺も屹度やるぞ」
誰もが思ふ。

だが大事な時になつて身体が固くなつてどうも自由が利かぬ。
鉛の靴でもはいた様だ。
高熱の時の様な気惰さはどう仕様もない。
皆の顔色も気の故か幾分青ざめてゐる。
話かけても返事もない。

第二回上原技師、大木主計中尉降下。
大木中尉は瞬間躊躇した様だつたが、再度勇を鼓して決行した。
小さくなつて落ちて行く。
今度こそ我々の番だ。運命は目前に迫る。
出来る丈け大きく呼吸をして努めて平静を粧ふ。
だが駄目だ。

席を立つて小山少尉に主傘、予備傘、そして細部の自動索を点検して貰ふ。
追ひ詰められた様な氣持で一杯だ。
後部の扉の方に重い足を運ぶ。
「大尉殿、降下したらあの山は見へなくなるでせうね」
「うん、見へんだろうなー」
自動索の茄子環を打ちかけ、力強く引つぱつてみる。

第四旋回。
「ビービー」
「降下用意」
強風に圧され気味の右手を手擦りに叩きつける様にして鷲攫。
次いで左手だ。
両足はガツチリ踏ん張られる。
首を出すと頬に烈風が吹きつける。
眼下は緑と黄と褐色の飛行場だ。
人影は見へないが格納庫の前の飛行機と吹流しが實に鮮やかに見へる。

頭を起して並行してゐる軽爆上に注視点を選ぶ。
機上の大尉殿はニコ〃笑つてゐられるのか、白い歯が見へる。
後の方を振り返へつて高級医官殿を見る。

十字点は小さく過ぎた。
一〇〇、二〇〇、三〇〇米通り越す。
「降下」
肩が鳴る。
「行くぞ、イヤツ」
「一ツ、二ツ、三ツ、四ツ……」
柔い布團に飛込んだ様に氣持よい落下だ。
「ポン」
軽い快い衝撃が五体に響く。
伸び切つた姿勢は軽く振られて静かに降る。
何も聞へず何も見へぬ。傘の点検にと仰ぎ見る。
講堂教官の諸注意が浮んで来る。
色々とやつてみた。
旋回、滑空。下は遠い。
まだ〃。
再び仰ぐ目に、傘体を流れる数本の吊索が脈管の様だ。
排気口の丸い穴からコパルト色の空が綺麗だ。

「異常なし」
予備傘の離脱も出来た。
落付いた平和な感じが湧き出てくる。手足を動かして見るが伸び伸びとした様だ。
ブランコより呑気だぞ。
羽衣の天人を思ひ出し、精一杯どなつて謡つてみたくなる。
「いかん〃、未だ着地の心配があるんだ。何を呑気に」
距離の目測はどうも出来ぬ。人の姿は見へない。太平洋が一枚に平たく見へる。
地上から「予備傘落せ」と怒鳴る。
此れでも五十かな。
手動索の赤い奴を引いて左方へ落す。
「シュール〃」
「バタン」
着いたぞ。


二十米、三十米、吊索の前方をグツーと引張る。
五米、二米……。
アツ、身体が倒れる。脚が前に滑り出た。
踵と尻と肩とが殆ど同時に前方に三点着陸で滑走する。
素早く立上つて傘を鎮める。上手に降りたぞ。
突風に流された事が返つて幸運だつた。

回転は出来なかつたが打撲症状は一つもない。
見よ、今こそ我等は地上に在るのだ。
地上勤務員が飛んで来る。
教官が、先輩が
「お目出度う」
「よかつたですね」
「離脱は實に立派な模範姿勢でしたよ」
「どうもありませんか」

「皆有難う。よく心配してくれましたね」
「お蔭様無事終りました」
感激だ。感謝だ。九死に一生を得た様なホツトした様な悦びに浸る。
緑の草原を渡る爽やかな微風は心地よく上気した頬を撫る。
一本の煙草が實に美味い。
到頭我々も降下したんだ。俺も降下が出来たんだ。
今日からは降下者なんだ。
得難い降下の貴重な体験は恙無く終つたのだ。

向ふから迎への乗用車が疾走して来る。
皆無事だつた。
一同揃つて召集に遅れた晝食を口にする。
医務室で降下服を脱ぎ、尿蛋白、血沈、血圧を測定し小休止。
帰へりの汽車の中で幾分、頭重を感じたがそれも知らぬうちに治つてゐた。

降下兵の目的は戦斗である。
降下ではない。
いや、開傘や着地ではない、降下後の戦だ。
我々に取つては降下後の衛生勤務なのだ。
我々の努力に任務に前途は洋々としてゐる。

終り
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